2008年9月にリーマンショックが勃発し、新興国の株価は真っ逆さま状態となった。
<前回より>
2008年3月、香港のIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)企業に就職した私に与えられたミッションは主にIR(インべスターズ・リレーションズ)業務であった。前年、米国で発生したサブプライムローン問題が新興国市場にも影響を及ぼし、中国を始めとする新興国の株価が下落し始めていた。世間では多くのエコノミストが、サブプライムローン問題が米国経済に深刻な影響を及ぼす可能性について警鐘を鳴らす一方で、新興国の台頭で中長期的にエネルギーや穀物の価格が上昇するとのデカップリング論によって商品市場は値上がりが続いていた。私が所属するIFAは日本で定期的に既存投資家向けの運用報告会を行なっており、私も通訳として同行していた。顧客の資産を預かるポートフォリオマネージャーは、2008年前半の株価下落を一時的なものとして捉えており、3月に米国政府がベアスターンズ証券を救済したことから、市場はやがて落ち着きを取り戻し、2008年後半は世界の株価は上昇に転じるという説明を繰り返していた。しかし、そうは問屋が卸さなかった。2008年9月にリーマンショックが勃発し、新興国の株価は真っ逆さま状態となった。その後は、顧客からの苦情処理の対応に追われて、新規営業どころの話ではなくなってしまった。そうして数ヵ月後、私自身も会社側から雇用契約の解除を通告された。
香港へ戻ってきてわずか1年後に大きな壁にぶち当たってしまったわけだが、幸いにも別のIFA企業が私を資産運用コンサルタントとして採用したいと声をかけてきた。渡りに橋の話ではあったが、昨年の金融危機の影響もあり、本当にこの業界で仕事を続けていくことが自分にとって正しい選択肢なのかどうか、大いに迷った。しかし、新しく所属先となるIFAのシニア・ディレクターT女史と出会ったことで、迷いは吹っ切れた。彼女曰く、「世の中に投資のプロを名乗る人達は星の数ほどいるが、本当に投資で勝ち続けている人はごくわずかに過ぎない。結局のところ、人間の感情というものが冷静な投資判断の邪魔をして、損失が損切り基準を超えているのに売却することができない、まだ値上がりする可能性がある投資対象を売り急いでしまう、ということが頻繁に発生する。だから、資産運用コンサルタントは、短期的なキャピタルゲイン目的の投資対象を推奨するべきではない。中長期的に成長することが確実な投資対象を選択して、あとはクローズ・ザ・ブックすれば良い。そうすれば損失が出る可能性は低くなり、自分が目標とするリターンを中長期的に達成することが可能になる。」